ギターを弾いて, 私はもう40年もたつだろう。
いま,私は農業をやっていて,そのあいまにギターを弾く。
そんな無理なギタリストだが,こんどリサイタルを開いたのは小栗孝之の曲を弾きたいからである。
彼は1943年に戦争の召集に遇い, 1944年レイテ島で戦死した。私の友人だが,また師のようであった。
彼の曲を弾くには技巧的に困難だったので公開するには負担が重いが彼の曲を弾いて25年・・・
・・・彼の曲をはじめて知ったのは1 938年頃だったと思う・・・満足には弾けないが,なんとなく,なにかが,私に彼の曲を弾かせるのである。
また,これを機会に彼の作品集を刊行することにもなった。誰かが,彼の曲を弾くかもしれないという余韻がするのである。
そんな余韻が響けばとこんどのこのリサイタルを開く衝動に駆られた。
「紡ぎ唄」の楽譜の終りは1937年7 月2 日ーー1943年3 月3 日と記してあるがその5 年のあいだに何回も作りなおしたのである。
その譜には少年のような感傷的な詩のような文字がかいてある。
—母に手をひかれて,夜更けの使いの帰り途,淋しい冬の田舎道とある煤家で糸車の音が聞える。
老母らしい農場の唄が単調な糸車の響に和して聞える。寒い夜更けだ。木枯がひとしきり吹いてゆく。
沓い幼い日の想い出は,都会の片隅で,劇しい生活の疲れに息吐く時,何時も甦って来るのだ。・・・
(深沢七郎ギターリサイタルプログラムより)
[*1,2]写真引用:山梨県率文学館/春の常設展/期間限定公開コーナー「深沢七郎 生誕110年」より
深沢七郎選集/全3 巻各6 9 0 円
大和書房刊行I 全粗屏説/ 日沼倫太郎推煎/小林秀雄井伏樽二武田泰淳
全国書店にあり。品切の折はギター日本社にお申込下さい。(送料不要)
第1 巻くエッセイ・対談>
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第2 巻く中・短篇小説>
揖山節考・東北の神武たち*流転の記・数の年令・脅迫者・・去年の秋・木曾節お六•三つのエチュード*ろまんさ・絢爛の椅子・女中ポンジョン・東京のプリンスたち
第3 巻く長篇・未発表作品〉
笛吹川・サロメの十字架*日本風ポルカ・支那風ポルカ・澪詣風ポルカ・講談風ポルカ・江戸風ポルカ・廊風ポルカ・ポルカ・アカデミカ・歌舞伎風ポルカ・編曲風ポルカ・浪曲風ポルカ・自叙風ポルカ・白笑・狂鬼茄子•他
[*出典]: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
[*転載]:digitalguitararchive/08-ギター日本.pdf