1958 (Showa 35) Classical guitar by Minioru Kano "Kodama"

1958年(昭和35年) クラシックギター 加納 実作 

1958年:高橋功氏・高嶺巌氏の渡欧

11月の西ドイツにおけるギタ-リストの国際会議に日本代表として会議に出席、その席上で田中常彦氏のギター曲を演奏予定。
別にドイツのマンドリンオーケストラの発表会に高橋氏が日本人の作品を指揮することになった。
そののちにアルベルト・シュワイツアー博士にパリで合流し、医師としてアフリカの病院で医療に従事する。(昭和33年7月16日)

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1958年(昭和35年) クラシックギター 加納 実作 "木霊(こだま)"
木霊(こだま)について:加納実 高橋様
今秋ベルリンヘお出かけとのこと、それも本業の為めでなくギター音楽のためと承って、私は何と御礼申上げてよろしいやら只々感謝にたえません。
どうか日本のギター音楽のためウンと御土産をお持ち帰りの程を今からお待ちしています。
先年先生からお口添えがあってProf.Jakob Ortner に貰っていただく筈のギターを3ケ作りましたが、3ケ共あまりパッとしないので、お約束はしたものの困っていました処、取止めになりましたのでホッとしました。
その後ローマのSt. Cecilia のアカデミーのギターコンクールにも出品するようおすiめいただきましたが、出せば勉強になり参考になると思いながら尻込みばかりしています。

さて、前から先生にギターを進呈したいと考えていました。
そして18世紀頃によくありました楽器の彫刻をしたものがありましたが、私はそんなのを一度製作して見たいと思って、いたずらをしましたのがこの楽器です。
木霊と名付けました。
唐草模様は無難であるかも知れませんが平凡であると考え、何かキバツなものをと思って作ってみましたのがこのガイコツであります。
実物のガイコツを見たこともなく、彫刻も素人の無茶苦茶彫で実に変手古なものと思いますが、人間の最も美くしい処を表現したつもりです。
ガイコツに肉がつき皮がつきますと人間というものは大変きたないものになると思います。
表裏共音質を考えて余り塗らずに仕上げてあります。
彫刻がしてありますので低い処にほこりがたまってきたなくなると思いますが、ガイコツの立体感を出そうと思えば裏板が厚くなり音に影響があり、適当な厚さにすればガイコツの立体感がなくなりますので、その点色々考えさせられました。
兎に角鳴るとか鳴らないとかシンコクに考えると切りがありません。
お手元に置いていただいて退屈の折にお弾き下さい。
表板は11、2年、裏板は15年位枠は5年位、指板は3年位乾燥してあります。 最近棹の広いものもありますが、日本人にはこれ位が適当と中野二郎先生が申して下さいました。
ケースは特別に註文して作りました。
過日来名の折Gonzalaz 氏にサインをして下さいと頼みましたら、よごすのに惜しいからとのことでした。
他日一流の演奏家になった時に記念になるからと更に頼みましたらやっとサインしてくれました。
Gonzalez 氏が御地へ演奏に行く頃までにお送りしようと思っていましたが大変おくれてしまいました。
私は一生の内1ケでも2ケでも快心の作に恵まれることが出来れば幸福と思っています。
音量音質共に一作ごとにエ夫してどうやら今日に至り、高級ギターの御註文にも応じられるようになりました。
色々お気づきの点があろうと存じますが、どうぞ御意見を承らしていたゞきます。

1958-05-04-Armonia

中野二郎氏の紹介文 今度高橋氏が渡欧するについて新たに高橋氏に贈られるギターが完成したので、この機に紹介したいと思った。
そのギターは写真に見らるる如きもので先ず楽器の生命とする音質とパランスがそれまでの同氏製作のものの中では断然ぬきんでている。
更に眼を見張るのは表面板を除いてギター全而に無数の骸骨が浮彫りされていることで、十七、八世紀の欧洲のギターに斯ういったものが見受けられるが現今では殆んど跡を断っている。
この浮彫の試作数片も見せて頂いたがこの労苦は並大抵のことではない。
誠に見事なものであるが象嵌と違って音質の上に悪く影響しているとは考えられない程音質は良い。
既に全国的に同氏の楽器を希望する人が沢山あり根強い愛好者を持っておられる。

ギターの真摯な研究家である田村敏雄氏が同じ町に住んでいられるので同氏との交流が益々よいものが生れる素因ともなって更に今後が期待される。
同氏は又非常な謙譲家で一見朴訥な好々爺に見えるがその読書範囲は驚くぺき広さで一楽器製作家の域ではないのである。
図書館へでも行かねば見られないようなものを座右に置いてある。
一つの形でも装飾でも眼が肥えているから間違っても変なものが出来上がらない所以がここにある。
余りほめ過ぎてはウソらしくなるからこの辺でやめておこう。

digitalguitararchive/1958-05-04-Armonia P.17,18,19

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